『師走の扶持 京都鷹ヶ峰御薬園日録』 記事トップ

『師走の扶持 京都鷹ヶ峰御薬園日録』――愛情ゆえの人間ドラマ

『師走の扶持 京都鷹ヶ峰御薬園日録』――愛情ゆえの人間ドラマ

薬草園で働く女性の成長と周囲の人々が織り成す愛情ゆえの人間ドラマ

江戸幕府直轄の薬草園で働く元岡真葛が、薬草の知識と持ち前の行動力で奮闘する『ふたり女房京都鷹ヶ峰御薬園日録』。その続編の本作は、いったん江戸小石川に舞台を移し、彼女が京都に戻ってくるなかで出会う愛憎劇が、連作短編で綴つづられる。

「もともとこの作品を書き出したのは、デビュー作の『孤鷹の天』より前。京都の鷹ヶ峰に薬草園が実在したこと、それを小説にしてみたいという思いから、1話だけ書いてみたんです」と語る澤田瞳子さん。「描えがきたかったのは、人物そのものより、その裏にある組織や構造でした。薬草園の管理と経営を代々任されてきた藤林家は、完璧に史料が残っていて、全員の経歴が明らか。なので、そこに第三者的な架空の人物・真葛を入れること
で物語を動かしていこうと考えました」。


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『師走の扶持 京都鷹ヶ峰御薬園日録』
徳間書店/1600円(税別)

真葛は知識が豊富なだけでなく、真面目で一生懸命な性格。通りすがりの病人や事件にも知らぬふりができない。「けっこう突っ走ぱしってしまうし、周囲が見えてないし、他人に対して鈍どん感かんなところもある。ただ、当時の女性としてできることを、ギリギリの線までやれる人物として書いています。自分には直接関係のないことだからこそ突っ込こんでいける、という面もあると思いますし。真葛自身はいい人に囲まれて育った幸せな女性です」。

それに比べ、彼女の周囲に登場する人びとは、その多くが後ろ暗さを背負って生きている。愛情ゆえに嘘うそをつき、事件を起こし、業の深さを露呈させてしまうのだ。「それはたぶん、作家としての私の根本的なテーマなのでしょう。たとえば『若冲』は、愛情ゆえ齟齬が起きる家族の話でもあります。トラブルって悪意から出てくるものばかりではない。時代小説は勧善懲悪になりやすいですが、私は少し違ちがうものを書きたいと思っています」。

物語の最後で、真葛は自分を捨てた祖父を許し、受け入れる。ところが、父親の玄已の行方はまだ明らかにならない。お年ごろである彼女の結婚や、淡い恋心も気になるところだ。

「この物語はまだ続きます。わりと読みやすいと思いますので、時代小説になじみのない方にも、ぜひ手に取っていただければうれしいですね」

取材・文=植田朋子 撮影=水野真澄
『パンプキン』2月号(1月20日発売)より転載

澤田 瞳子(さわだ・とうこ)/1977年、京都府生まれ。2011年、初の小説『孤鷹の天』で第17回中山義秀文学賞を最年少で受賞。13年『満つる月の如し 仏師・定朝』で、本屋が選ぶ時代小説大賞2012(「オール讀物」誌)ならびに第32回新田次郎文学賞を受賞。著書に『関越えの夜 東海道浮世がたり』『泣くな道真大宰府の詩』『若冲』『与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記』、エッセイ『京都はんなり暮し』などがある。

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