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第3回 「将来への危機感」が高いアメリカの若者たち

第3回 「将来への危機感」が高いアメリカの若者たち

将来に対する危機感が高いアメリカの若者たち

 ニューヨーク取材で、ある若者が「いま、私はキャリアを積み上げることに真剣だから、恋愛どころじゃない」と言っていました。この言葉に、ニューヨーカーの危機感がかいまz見えました。
 
 アメリカの若者たちが置かれている就職状況の厳しさに比べたら、日本の若者はぬるま湯につかっているようなものです。ハーバード大学を出たような若者でさえ、望む企業に就職できず、卒業して数年間はNPO団体で地道で厳しい生活をして、そこでキャリアを積むことでようやく就職できる・・・そのような状況があるのです。
 
 一方、日本では大学を出た若者の9割以上が「新卒一括採用」に守られて就職できますし、採用されればよほどのことがないかぎりクビにはなりません。手厚く守られているのです。
 
 日本では少し前に、「ティーチ・フォー・アメリカ」というアメリカの教育系NPOが、「文系就職ランキング」でグーグルやディズニーよりも人気がある、と紹介されました。「ティーチ・フォー・アメリカ」がランキング1位になったのは事実ですが、そのことをもって「アメリカの若者はそれほど社会貢献意識が高いのだ」と主張されてしまうと、それはちょっとまとはずれではないかという気がします。
 
 たしかに、今回取材したニューヨークの若者たちの中にも、NPOで働いている人、NPOに就職を希望している人がいました。また、いまのアメリカの若者たちの社会貢献意識が高いのもたしかです。しかし、彼らの多くは、グーグルやディズニーのような超人気企業を「蹴って」NPOを選んだわけではありません。

「入れるものならグーグルのような企業に入りたいさ。入れないから、まずは入りやすいNPOに入って、そこでキャリアを積む道を選んだのさ」
 
 今回取材した若者の一人が、いみじくもそのように発言していました。NPOは、利益追求のための組織ではないので給与は総じて低く、そこで働く人の大半は生活が苦しいのが実情です。それでも、就職事情が厳しく、NPOを選ばざるを得ないという事情もあるのです。
 
 ともあれ、日本の若者の「なかなか変わらない」特性の一要因は、その「危機感のなさ」にあるのかもしれません。
 
 今回ニューヨークで取材した若者たちは、いずれも「ミレニアルズ」に当たります。「ミレニアルズ」とは「ミレニアル(新千年紀)世代」のことで、1980年代から2000年代初頭に生まれた、現在10代から20代の若者たちを指します。物心ついたころからインターネットがすでに身近にあった、いわゆる「デジタルネイティブ世代」とも重なっています。
 
 そして、このミレニアルズは、物心ついたころにはすでにアメリカがあまり豊かではなくなっていた世代でもあります。就職状況も厳しく、自己防衛せざるを得なかったため、自らの将来に対する危機意識も高い。そして、自分たちを取り巻く状況の厳しさを反映して、社会貢献意識、政治意識が高いという特徴をもっています。

アレックス

ニュージャージに暮らす高校生のアレックス・ベルキンさん。17歳ながら大統領選挙には高い関心をもっていた

 ニューヨークでインタビューした若者たちの多くは、みな高い政治意識、社会貢献意識をもっていました。なかには、「政治にはまったく期待はしないし、米国政府にも何も期待はしていない。選挙は、一回だけ経験と思って行ったけど、それから一度も行っていないわ。大統領選は選挙人制度があるから、個人の投票はあまり意味がない」と断言している女の子もいました。彼女は政治に絶望しているというより、「政府なんかに頼らないで全部、自分の力でなんとかするわ」といった自立した生き方をしている女性でした。
 
 日本では、「さとり世代」は政治意識が低いというイメージがあります。じっさい、2014年の衆議院選挙では、20代の投票率は32.58%と戦後最低を記録し、そのことがしばしばニュースに取り上げられるほどです。
 
 ところが、アメリカやアジア各国ではそうではなく、「さとり世代」化しているにもかかわらず、その一方では政治意識が高まっているのです。
 
 たとえば、台湾の若者たちが2014年に国会(立法院)を占拠したことから始まった「ひまわり学生運動」や、香港で2011年に起きた「中国版ジャスミン革命」などは、それぞれ日本の「さとり世代」と同じ世代の若者たちが起こしたものです。
 
 アメリカにおいても、1996年の大統領選挙では、18歳~29歳の投票率は、39.6%でしたが、2102年の大統領選挙では、45.0%を記録しています。ただ補足しておきますと、日本においても民主党が政権奪取した2009年衆議院選挙では、20代の投票率は49.45%と大きく伸びました。変革への期待が投票行動に明確に表れたのです。ただその後の2014年総選挙では、前述したとおり戦後最低の投票率となってしまったのです。

「さとり世代」でも政治意識が高いアジアとアメリカ。対照的に政治意識の低い日本の「さとり世代」。この違いはおそらく、先ほど述べた「日本の若者の危機意識の希薄さ」の反映なのでしょう。
 
 もっとも、日本でも安保法制論議をめぐって若者たちが10万人単位のデモを行うなど、日本の若者たちもようやく危機意識と政治意識に目覚めたのかな、と感じさせるちょうこうはあります。
 
 とはいえ、1960年の安保闘争には100万人の若者が参加したわけで、スケールとしてはまだ小さいですし、安保法制反対を叫ぶ若者たちのうち、何割かはオジサンたちに「動員された」だけで、本気の子は多くないのかもしれません。
 
 そう考えると、アジア各国のスチューデント・パワーやアメリカのミレニアルズの政治意識の高まりに比べれば、まだ「本気度」は低いのでしょう。
 
 アメリカは、21世紀のいまでさえ、白人警官が黒人少年を不当に射殺してしまうような事件が起きる国です。そのような矛盾を抱えているからこそ、ミレニアルズの政治意識の高まりも起きるわけです。ひるがえって日本では、国民が警官に人種差別によって不当に射殺されるような事件が起きることは、ほぼあり得ません。なんだかんだ言っても、日本はいまなお世界屈指の平和な国、安全な国なのです。
 
 だからこそ、若者の政治意識もなかなか高まらないのでしょう。「政治を変えることによって国を変えられる領域」が、ほかのアジア各国に比べて狭いのですから・・・。

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