【書評】『仏法と科学からみた感染症』――現代史を画する「希望のメッセージ」

【書評】『仏法と科学からみた感染症』――現代史を画する「希望のメッセージ」

[著者]鈴木潤/麻布大学名誉教授 [評者]宮川洋三/山梨大学名誉教授

 本書の冒頭の「はじめに」を通して、「仏法の理論、思想・哲学を基調として感染症というものをどのように捉えるか」という一点に著者のそもそものテーマがあることが理解できます。
したがって、仏法哲学の基礎をすでに学び、同じ信仰をもつ多くの人々にとって、これまで難解と思われていた感染症や免疫学上の諸問題が、わかり易いイラストをずいしょに添えながら、仏法の視点からも平易な言葉で解説されており、まさに「待望の書」として歓迎されるものとなるでしょう。

 第1章「感染症の歴史と微生物の誕生」では、これまで時代ごとに異なる種類の感染症が出来し、そのたびに「帝国の滅亡」をはじめ社会にの激変をもたらした歴史的事実が、「鎌倉時代の感染症」の特徴を示すなどして具体的に整理されています。


suzuki_kansen

『仏法と科学からみた感染症』(小社刊)

 生物学的には諸説あるとしつつも「立正安国論」を引用し、当時えきびょうもうを振るった背景に「侵略・権力争い」や「人心の荒廃」があるとの著者の洞察は、「格差社会」を放置し「自分ファースト」を常態化させた21世紀の今日、新手のウイルスの襲来を受けてアッという間に全世界が「パンデミック」に至った現状と重ね合わせたとき、まさしく「問題の急所を突いたもの」といえます。
 そこには、「はじめに」のなかで著者が学生時代に信仰上の恩師から受けたくんとうに、「血液がふっとうする思いだった」と紹介されている、「物事には急所がある。ホシがある。そのホシを見抜くがんしきけいがんぶつがん)を君たちは養っていきなさい」との言葉をほう彿ふつとさせるものがあります。

 第2~3章において「感染症学」の基礎を築いたパスツールら先人たちの功績をたたえながら、その知見を簡潔に解説しつつ、一般の人々にとってはみのない「サイトカインストーム」という免疫系の暴走といった最近の話題についても理解されやすい表現を駆使して語られています。
 そのうえで「感染症学」の核心部分とされる「自然免疫」「獲得免疫」の解説を通して、私たちが日々健康に生きるうえでの「免疫」の大切さとともに感染症に打ち勝つけつつづられています。

 本書のまとめをかねた第4章では、抗生物質の効かない薬剤耐性菌や未知(新顔)のウイルス群の登場に追いまくられる現代社会のすがたが描かれています。その背景に、最近、グドール女史(動物行動学者/イギリス)らが指摘しているのと同様に、自然の生態系を無視してつねに経済活動を優先してきた人間の振る舞いがあると厳しく警告しています。まさしく、「疫病の背景に人心の荒廃あり」との著者の洞察(第1章)のとおりといえましょう。

 本書の先駆性は、こうした点を踏まえた上で人類の生存を脅かす「がん」の問題をも視野に入れ、「コロナ後社会」を見据えつつ、これらの疾病に立ち向かう人間の基本的姿勢・生き方として、細菌・ウイルス・がんを「敵視」する従来の考え方から、これらと「共存」「共生」していく方向へと一大転換していくことの必要性を訴えた点です。
 さらにはこうした新たな生き方・考え方が仏法本来の「利他」「共助」の自然観・生命観にかなっていると明かしているところに、著者の哲学性をうかがい知ることができます。

 本書をかんして特筆すべき点は、こうした東洋の思想、仏法の哲学の卓越性を指摘するに留まらず、「かいそくせい」の「妙の三義」といった仏法の奥義から現代免疫学の核心部分へと具体例を挙げて、その論を展開しているところにあります。
 たとえば「開の義」については、生命体は本質的に細胞間・臓器間での情報交換をたえず可能にするために「常に開かれた状態」にある事実に着目しています。すなわち、腸内細菌のなかで通常は悪玉菌とされているクロストリジウム(食中毒の原因菌で知られるウェルシュ菌はその一つ)の産生するらくさんちょうかんまくを介して周囲の免疫細胞にメッセージを伝え、T細胞が制御性T細胞に変化することで恒常性維持に貢献しているとの最近の免疫学上の興味深い知見を紹介。
 また「蘇生の義」としては分子生物学でよく話題になる「遺伝子発現」の問題にふれ、「祈りや励ましが遺伝子のスイッチに働きかける力をもつ」可能性を指摘した点などは、今後の医学・生物学がとるべき注目に値するアプローチの一つを示唆しているといえそうです。

 以上のように、本書を通して著者が一貫して訴えるのは、「感染症」についての現代医学・免疫学・生物学領域からの最新知見にふれつつ、仏法の生命観に立つことで垣間見えてくる生命の本質とその深淵さであり、同時にその視点から、昨今の新型コロナを巡るパンデミックという現代史における未曾有のピンチを「文明の転換」へと向かわせる「パラダイムシフト」の絶好のチャンス、一大転換点と捉えることの大切さです。
 まさにその意味において本書は現代史を画する「希望のメッセージ」であるといっても過言ではないでしょう。
                                   

top
Copyright © 2015 USHIO PUBLISHING CO.,LTD. All Rights Reserved.