対決!日本史

第4回 悪化する日韓関係をつなぎ留める処方箋

第4回 悪化する日韓関係をつなぎ留める処方箋

このほど安部龍太郎氏(作家)と佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官)の対談本『対決! 日本史 戦国から鎖国篇』(発売日2020年6月5日 予約受付中)が上梓されるにあたって、本書の一部を「潮WEB」で無料配信します。第3回までの配信分が、『対決! 日本史 戦国から鎖国篇』の第1章「乱世を生き延びるための『史観』」。第4回からが第2章「歴史から読み解く日韓関係」となります。

薩摩藩の琉球処分をどう読み解くか

佐藤 僕の母は沖縄県のじま出身でして、僕の中には「日本人」としてのアイデンティティと「沖縄人」としてのアイデンティティ、両者が混じり合った複合アイデンティティがあります。
豊臣秀吉の朝鮮出兵に関して僕にとって興味深いのは、琉球の動きです。さつの琉球入り(1609年)の前に何があったのでしょう。「琉球も朝鮮に出兵しろ。出兵できないのならカネを出せ」と迫られた琉球は、次のように応答しました。「朝鮮とみんは一体だ。朝鮮出兵なんてことに我々が協力すれば、琉球が明に対して弓を引くことになる。明と朝貢体制にある琉球としては、そんな戦争にはとても協力できない」。
こう答えて、琉球としては朝鮮出兵をサボタージュしました。そのせいで、のちに薩摩の琉球入りが起きるのです。薩摩は琉球王朝の尚寧王を江戸まで強制連行して、2年間ひっ捕らえてから琉球に戻すときに、「道の島」(現在のあまぐんとう)を薩摩の直轄地にしました。
ところがとくしまのすぐ西側にある硫黄鳥島(現・沖縄県久米島町)だけは、なぜか薩摩の直轄地にはしていないのです。なぜか。硫黄鳥島で硫黄が取れるからです。
安部 この対談第2回で触れたとおり、硫黄は鉄砲で使う火薬の原料です。硫黄鳥島で取れる硫黄は、貿易航路を通じて明やしんに流れていました。
佐藤 硫黄が取れる硫黄鳥島を琉球の管轄にして、薩摩藩の枠外としておけば、琉球は引き続き硫黄を使った貿易を続けられます。当時の為政者たちは、内政だけでなく国際貿易にまで目を凝らしながら、いろいろなことを考えていたのです。
安部 現代にもつながる話です。

「水戸黄門・琉球篇」が放送されない理由

佐藤 僕も非常にお世話になっている大城たつひろ先生は、沖縄県の出身者として初めてあくたがわしょうを受賞しました(1967年に『カクテル・パーティー』で受賞)。その大城先生が87年に『休息のエネルギー』(農山漁村文化協会)という本を出していまして、その本に「なぜ水戸黄門の琉球篇がないのか」という話を書いているのです。

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佐藤優氏

安部 あっ、そう言われてみれば、47都道府県のうちなぜか沖縄の話だけが出てきませんね。
佐藤 実は水戸黄門・琉球篇の計画はありまして、東京中央のキー局はやりたがっていました。でも沖縄のテレビ局から「そんな番組はとても放送できない」と断られたというのです。
理由は2つあります。第1に、助さん格さんがケンカをする相手は琉球空手の達人です。助さん格さんのレベルでは、琉球空手の達人には、ガチンコ勝負ではとても勝てない(笑)。第2に、なんとか市街戦を切り抜けて最後のところでいんろうをデーン!と出しても、「クレ、ヌーヤガ」(琉球語で「これは何だ」)と言われてしまうのです。
安部 わはは。「この紋所が目に入らぬか!」と印籠を出しても、誰も意味がわからない(笑)。
佐藤 印籠を見てみんなが「ヒエ~ッ!」とひれ伏す構図は、歴史考証から見てつじつまが合わないのです。南は薩摩までは印籠の意味がわかりますけど、薩摩より南に住んでいる琉球人は、江戸幕府があるなんてことは誰も知りませんからね。
ここまでは大城先生の本の受け売りでして、この先は僕自身の考察です。そもそもみつくにの印籠がどこから来ているのかといえば、その起源はもちろん江戸幕府の副将軍ですよね。では将軍の権力の源泉はどこにあるのか。京都の二条城です。
二条城に行ってみると、そこにはまず白書院があって黒書院があって、その先に勅使の間があります(二条城の見取り図参照)
。勅使の間には畳3枚くらい上がった場所があって、勅使のほうが上、将軍が座る場所は下です。
つまり水戸光圀は、最終的には天皇神話のネットワークの中に組みこまれているのです。沖縄は天皇神話のネットワークの中には入っていません。そこには明確な切断があるのです。
印籠の3つ葉あおいがまったく効かない。この事実は「沖縄は天皇神話に包摂されていない領域だ」ということをにょじつに示しています。これは今の沖縄問題について考えるうえでの1つのカギだと思うのです。
安部 ちなみに水戸「黄門」とは朝廷の官位(ちゅうごん)です。唐では中納言のことを「黄門」と呼びました。
佐藤 このように世界史と日本史は近接しています。特に日本と近接する朝鮮半島と中国、東南アジアとの歴史は、とても重要なのです。

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