昭和の色に彩られた人情小説

昭和の色に彩られた人情小説

『おっさんたちの黄昏商店街』

[著者]池永 陽 [評者]池上冬樹/文芸評論家


 舞台は現代でも、昭和歌謡や映画や往年の俳優の話など、昭和の色に彩られた人情小説である。職人池永陽らしい確かな仕上がりで、充分に読者をもてなしてくれる。
 都内の北部、埼京線沿いの小さな町にある鈴蘭中央商店街は、衰退の一途をたどっていた。そのため町おこし推進委員会が作られる。メンバーは六十五歳を迎える四人の同級生たちだ。学習塾経営の小堀裕三、元区役所職員の川辺茂、老舗しにせ喫茶店の主人の洞口修司、はり医の羽生源次、それに顧問として高校二年生の五十嵐翔太が加わる。母子家庭で貧しいが、成績優秀で、東大に入れるのではないかとうわさされている。
 本書はそんな商店街の人々を描く連作で、七編で構成されている。非協力的な豆腐店の店主の翻意をうながす「昭和ときめき商店街」、小便臭い古い映画館の再生をめぐる「初デートは映画館で」、翔太の七海への恋心が悲しみへと転換する「翔太の初恋」、裕三の罪と七海誕生秘話を物語る「十月のしようりよう流し」、歌声喫茶で明らかになる切ない思い「七海の苦悩」などである。
 そういう本筋にさまざまな脇筋(住民たちの苦情と要望への対処、個々の人物の活躍たん)が織り込まれる。なかでも、古式柔術を得意とする源次が、商店街にあらわれる屈強な外国人たちや半グレ集団と闘う話などが活気を与えているし、翔太の的確な提案や推理もいい。話を追うごとに病気や不倫など隠された部分があらわになり、小さなドラマが同時進行していくのもいい。
 昭和の話が満載とはいえ、まるで任侠映画風に半グレ集団と闘う話(「八人のサムライ」)をラストにもってきて、主要人物の死を予感させるのはやりすぎだが、おそらくこれはシリーズ第二作への〝引き〟なのだろう。七海の父親問題、推進委員たちの憧れのマドンナともいうべき七海の母親恵子の不在、主要人物の余命問題など伏線が回収されていないからで、明らかに続きがある。そして続きを期待したくなるほど商店街も群像も人懐こい。ぜひともシリーズ作品を重ねていってほしいものだ。 (2019年『潮』4月号より転載)

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