恋文・中

「どうする、やつらが出てくるのをここで待つか、げんジイ」
 脱衣所まで戻ったかずひこは、源次にく。
 かたわらにはかんも立っていて、心配そうなおもちで二人をうかがっている。
「いっそ、風呂場のなかに入るか」
 ぼそっと源次はいい、
「ここだと凶器を持っていた場合、だつかごからそれを取り出すってことも考えられるが、風呂場ならそんなことはねえからよ」
 筋の通ったことを口にした。
「それに、風呂場なら同じぶねに浸かって、はくりょうかいかしらと話し合いができるかもしれん。そうなりゃ、無益な殴り合いは避けられるかもしれんからよ」
 今度は源次らしからぬ言葉が出てきた。
 あの暴れたがっていた源次が、話し合いという言葉を出したのだ。やっぱり変だった。どう考えてもいつもの源次とは違う。どこか、体の調子が……。
「源ジイ、お前。体の具合でも悪いんじゃないのか。何となく顔色も悪いような気がするし、大丈夫か」
 思わず和彦が声をあげると、
「病気なのか源ジイ。それなら今日は無理なんかせんでも。どうせ、しょっちゅう顔を見せるやつらだから、別の日にしたって」
 心配そうな口振りで貫次がいった。
「大丈夫だよ、ちょっと熱っぽいだけだからよ。ひとっ風呂浴びれば、よくなるさ。それに、ちょうど頭がきてるっていうんだから、これを逃す手はねえからな」
 源次は大きく息をいた。
「そこまでいうのなら……しかし、源ジイ、本当にお前、大丈夫なんだろうな。貫ちゃんがいったように、やつらはしょっちゅうここにくるんだから」
 こんわくぎみに和彦はいう。
「大丈夫だ、わしは不死身じゃから」
 源次はにまっと笑い、脱衣だなの前に歩いて服を脱ぎはじめた。和彦もあわててとなりに立って上衣に手をかける。
「和ちゃんも行くのか」
 という源次の声に、
「当たり前だろ。源ジイ一人を死なすわけにはいかんからな。死ぬときは一緒だ。もっとも俺は弱いから戦力にはならんがな」
 和彦は笑いながら答える。
「死ぬときは一緒ってか――ありがてえな」
 源次はてのひらで顔をつるっとなでてからパンツを脱ぎ、自分の下腹部をのぞきこむように見た。そして、妙なことをやり出した。
 を踏むように足を開き、右手を伸ばしてかんをぎゅっと握りこんだ。そのまま腰をぐるぐる回しながら、右手で股間をこねるような仕草をしている。
「おい源ジイ、お前いったい何をやってるんだ。妙な手つきで」
 周りを窺いながら、和彦は小さな声でいう。
 源次の動きはどう見てもわいそのもの。これではまるで変態オヤジだ。傍らを見ると貫次が、見てはいけない物でも見るような表情で源次の仕草をうかがっている。
 股間にあてた源次の掌は徐々に小さく丸まっていき、
「ひょいっ」
 妙な声が口からあがった。
 同時に切なそうないきを源次はもらした。
「おい、源ジイ。お前、こんなところで、何をやらかしてんだ」
 周りをきょろきょろ見ながら和彦は、おろおろ声をあげる。脱衣所には数人の客がいて、薄笑いを浮べながら源次の様子を見ている。
「うろたえるな、ちゃんとした術じゃ」
 おごそかな声で源次はいった。
「金玉を下腹に押しこんだんじゃ。すっぱだかで乱戦になって股間に何かが少しでもあたったら、いかにわしでも身動きがとれんようになる。じゃから、玉をしまいこんだんじゃ」
 せいぜんといった。いわれてみればもっともな話だが、それにしても。
「そんなことができるのか。玉を下腹に押しこむことなど」
 あっにとられた思いで源次の股間を改めて見てみると、なるほど玉がなかった。その分、全体が小さくなり、何となく子供の股間のようにも見える。
「そういうことじゃから、準備万端でそろそろ行こうかいね――貫ちゃんは、そのままの格好ですみにいてくれればいいからよ」
 和彦と源次は貫次からタオルとせっけんを借りて、浴場のほうに向かった。
 なかに入ると湯気と熱気がわっと三人の顔に押しよせた。浴場のなかをかして見ると、人相の悪い連中が四人ほど、あちこちの湯にかっていた。普通の客の姿は一人も見当たらない。
「これなら、ちょうどいいな。源ジイ」
 ささくやように隣の源次にいうと、
「そうだの」
 という源次の口調が変だった。
 思わず顔を覗きこむと、顔が汗びっしょりだった。いくら浴場のなかといっても汗だくになるのは早すぎる。傍らの貫次を見ると、同じように心配そうな表情だ。
「貫ちゃん、頭はどれだ」
 源次が低い声でいった。
「奥のくすりゆに浸かっている二人のうちの、体が大きいほうがそうだ」
 源次の様子を気遣ってか、貫次はえんりょぎみに答えた。その薬湯に和彦が目をやると、髪を赤く染めた小さいほうの男が頭らしき男に何か耳打ちしているのが見えた。
 どうやらこの男、和彦と源次のことを知っているようだ。ひょっとしたら、以前、源次に痛い目にあわされた連中の一人なのかもしれない。そいつが耳打ちしてるということは――。
「行ってくるか」
 苦しそうに源次はいい、上がり湯で前を洗ってから、薬湯に向かって歩いていった。和彦も慌ててそれを追う。貫次はそのまま入り口に突っ立っている。
 薬湯の前で源次は止まり、おうちになって白猟会の頭らしき男をめつける。
 とたんに男の顔にちょうしょうが浮んだ。
「小っせえなあ」
 男の視線は源次の股間に釘づけだ。
「背もちんちくりんだが、あそこはもっとちんちくりんだな」
 源次の顔が赤くなった。
「で、何もかもが小っせえおっさん。俺に何か用でもあるんか」
 よゆうしゅくしゃくの声でいった。
「ちと、話がの――」
 いうなり、源次は薬湯のなかに入っていった。和彦も後につづいて湯のなかに入るが、胸ははやがねを打ったように鳴り響いている。正直いって怖かった。
 この頭らしき男。顔がじんじょうではなかった。
 目も鼻も口も人並以上に大きくて、目立っていた。が、それが問題ではない。尋常でないのは雰囲気だ。冷たかった。かみそりの刃を連想させた。もろいがゆえに危うかった。
「あんた、名前はなんていうんだ」
 湯船に浸かりながら源次がいった。
「てめえの名前を先にいったら、どうだ。小っせえおっさん」
 男がぼそりといった。
「そりゃあ、悪かったの。わしは源次といって、しんきゅうしじゃ」
 ていねいに源次は答えた。
ひしかわじんだ。何もかもが尽きるという意味らしいが……仕事はそうだな」
 菱川はちょっと考えてから、
「死刑予備軍だな」
 吐き出すようにいった。
「そりゃあ、たいそうな仕事じゃが、そんな大そうな男が、あっちこっちに嫌がらせをして面白いかいね」
 源次の言葉が終るか終らないうちに、
「やったれや」
 赤毛の男にあごをしゃくった。
 すぐに男が立ちあがった。
「出ろ、クソオヤジ」
 いうなり、湯船の外に飛び出た。
「人の話も聞かねえ、野郎か」
 菱川の顔にぶつけるようにいい、ゆっくりと源次も湯船を出て、赤毛の男の前に立った。男の顔はそうはくだ。源次の強さを知っている様子だ。男の後ろに大きな湯船に浸かっていた二人がつめてきた。
 赤毛の男はへっぴり腰で源次に近づき、りを放った。きんてきりだ。これがどういうわけかみごとに決まった。が、玉なしの源次は倒れない。赤毛の男の顔に、とまどいが浮ぶ。がむしゃらにつっこんだ。左右のパンチを源次の顔にあびせた。
 これもすべてヒットした。
 いつもの殴らせる戦法かと和彦は最初、そう思ったが、どうやらそうでは……殴らせているのではなく、源次は殴られているのだ。体がいうことをきかないのだ。何とか耐えているだけで精一杯。それでも源次は倒れもせずに立っている。必死でまんしている。立ちつくしている。
「何だ、そのザマは」
 菱川がえた。
 後ろから見ている菱川には、赤毛の男の攻撃を源次が平気で受けとめているように見えたらしい。
 菱川が湯船のなかで立ちあがった。
 大きかった。背は二メートル近くあるようだった。横幅も太く、がっちりした体格はレスラー並みに見えた。巨大だった。その巨大な体が湯船を出て、小さな源次の後ろに立った。大人と子供というよりは、大人と幼稚園児のようだ。
 ゆっくりと源次が振り向いた。
 大きな手が源次の顔面をおそった。
 平手打ちだった。一発で源次は吹っ飛んだ。タイルの上に転がった。のうしんとうでもおこしたのか、源次はさかんに頭を左右に振っている。それでも両手をついて、何とか起きあがった。近づいた菱川と向き合った。
 菱川の両手が源次の首とまたの間に入った。軽々と源次の体を担ぎあげ、両腕を伸ばして頭の上に持ちあげた。
 そのまま、いちばん大きな湯船のなかに叩きこんだ。高い飛沫しぶきがあがり、ぶくぶくと沈んだ。すぐに源次の体は浮きあがってきたが、必死になってもがいている。手足をばたつかせている。初めて見る、源次の死に物狂いの姿だった。
「帰るぞ」
 菱川がった。
 そのまま後ろも見ずに菱川は戸口に向かった。すぐに残りの三人もそれに従う。
「源ジイ!」
 和彦は湯船に飛びこみ、源次の体を抱きとめた。源次がしがみついてきた。熱い湯のなかで、小さな体が小刻みに震えているのがわかった。


 いつもの顔ぶれがそろっている。
 今夜はほらぐちの店の『エデン』だ。
「源ジイ、もう大丈夫なの。本当に大丈夫なの」
 きりが今まで聞いたこともないような、優しい声を出して源次を見た。
「大丈夫だ。もう何ともねえ」
 ぼそりと源次はいい、テーブルの上のカップに手を伸ばしてコーヒーをすすった。
「あの夜は大丈夫だったのか、ちゃんと眠れたのか」
 念を押すように和彦が訊くと、
「ちゃんと眠れた。ほっはあれで収まった」
 しんみょうな顔で源次は答えた。
 あのとき――。
 和彦は貫次と二人で湯船から源次を引きあげ、浴場のタイルの上に寝かせた。源次はすぐに体を横向きにし、背中を丸めてひざを抱えこむような姿勢をとった。
「いつもの発作だ。しばらくこうしてれば、収まるからよ」
 そのままの姿で十分ほどが過ぎ、源次は手をタイルにつけて、のろのろと起きあがった。どうやら源次のいう発作は収まったようだが、顔色はまだ悪い。
「申しわけねえ。今日はこれで帰らせてもらうからよ。詳しい話は、また今度するから。だから今日はよ」
 ゆっくりと立ちあがって脱衣所に向かった。
 和彦は貫次に、このことは内密にしておいてほしいと念を押し、源次を送って家まで帰ったのだが……。
 そして、今夜の集まりになった。
「源ジイ。今夜こそは、きちんとした話をしてくれるんだろうな。いったい、何がどうなっているのか。俺たちも源ジイのことは本気になって心配してるんだからよ。何たっておさなじみなんだからよ」
 洞口がんで含めるようにいい、すぐにみんなが同調してうなずいた。
「話すよ。何もかも全部話すよ」
 源次がしわがれた声を出した。
 しょうたがごくりとつばを飲みこむのがわかった。
 かわが体を乗り出した。
「実はわし、がんなんじゃよ」
 ぽつりといった。
「癌細胞の転移はふくまくまで進んでいて、こうなると今の医学では何ともよ。つまり、ステージフォーっていうわけだ」
 低い声で話す源次に、
「ステージフォーってことは、外科的な手術はもう無理ってことだよな」
 和彦も低い声でいう。
「そういうことだ、末期癌だよ。あとは抗癌剤による延命治療だけだが、わしはそれを拒否した」
 はっきりした口調でいった。
「拒否って、なぜ」
 川辺が悲鳴のような声をあげた。
「残りわずかな時間を病院のベッドに縛りつけられて暮すんじゃなく、わしらしい生きかたをしようと思ったからよ」
 源次はちょっと言葉をつまらせた。
「医者は余命一年だといった。時間は限られているからな」
 周りがしんと静まり返った。
「わしはその日から、わし流の治療をすることにきめたんじゃ」
 妙なことを口にした。
「源次さん流の治療って。それって、いったい、どんな」
 翔太が体を浮かすようにして、叫び声をあげた。
「癌との対話、癌も生き物だからよ――」
 ぽつりと源次は口にした。
 医者から余命一年と告げられた夜から、源次は癌細胞と向き合うことを決めたという。
 深夜、源次は自宅の治療室にこもって、癌細胞とたいした。
 真暗な治療室のなかにろうそくを一本だけ立て、きちんと正座をして印を結ぶ。
『臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前……』
 唱え終えると、胃の部分に左手をのせ、癌細胞との対話を開始する。左手は癌とのパイプ役だ。
「消えてくれとはいわぬ、共存しようじゃないか。お前がこれ以上増えて、わしが死ねば、お前も死ぬことになる。これではさびしい限りじゃ。わしも生きて、お前も生きる。これが最善の方法だと思うが、どうじゃろう」
 こんな言葉を繰り返して、源次は癌細胞に語りかける。
「わしは、お前を殺す抗癌剤を一切飲まぬ。だからお前も、わしを殺すな。共存じゃ。仲よく一緒に生きようじゃないか」
 こんなことも源次は口にしたという。
 やり始めたのは去年の暮れだった。
 源次は暖房を一切使用せず、てついた治療室の板の間に座りつづけた。こごえる足もそのままに、源次はひたすら、癌細胞に語りかけた。
 そのさなかにも、激痛が体を襲うことがあった。源次はそれでも患部から左手だけは離さず、右手で床を殴りつけながら脂汗を顔に浮べて語りかけた。死の恐怖と闘いながら、癌細胞に訴えた。
 あまりの痛さに、右手の指から血がき出すほどみしめたこともあった。おうすることもあった。気が遠くなり失神しかけたこともあった。死の恐怖から大声をあげそうになり、顔を殴りつけたこともあった。
 怖かった。淋しかった。悲しかった。
 周囲はろうそく一本だけのやみ
 闇は無限大につづいていた。
 源次は一人きりだった。
 心細さに涙がこぼれたこともあると源次はいった。
 体に変化が起きたのは、三カ月ほどがってからだった。
 一日に何回もやってくる激痛の回数が減ってきた。全身を包みこんでくるだるさも軽くなった。食欲も出てきた。ビールぐらいなら酒も飲めるようになった。死への恐怖も薄らいできた。
「ありがとよ。わしの勝手な願いを聞きいれてくれて本当に感謝してる。ありがとよ」
 語りかけが癌細胞への礼に変った。
 それでも時々、癌細胞は暴れて激痛が走ることがある。
 それが『梅の湯』の一件であり、『かくち酒場』での一件であるといって源次は話をしめくくった。
「癌細胞との話し合いですか。すごいですね。本当にすごいですね。そんなこと、源次さんでないと、できませんね」
 うわずった声をあげたのは翔太だ。
 心の底から翔太は感動しているようだ。
「それで、癌のほうは小さくなったのか。医者には調べてもらったのか」
 洞口がたたみかけるようにいうと、「いいや」と源次は首を振った。
「それをやると、何やら癌細胞への裏切りというか、信頼度がゆらぐというか、失礼というか……そんな思いから、あれから医者へは一度もいってねえな」
 と源次がいったとたん、突然桐子が立ちあがって拍手をした。
「えらい、源ジイ、えらい。それでこそ、男のかがみ――源ジイのまごころは必ず相手の女性にも伝わるはず。私、感動しちゃった。何だか涙が出てきそう」
 とんちんかんなことを口にした。
「桐ちゃん、癌細胞っていうのは女性なのか」
 思わず和彦が声をあげると、
「男に取りつく癌細胞は女。女に取りつく癌細胞は男――これはもう、ずっと昔から人類がこの世に生まれたときから、決まっていること」
 よどみなく桐子は答えた。
「へえっ、そうだったんですか」
 川辺が頭を振りながらいうと、
「そうに決まってるじゃん。ねえ、源ジイ」
 桐子は源次に同意を求める。
「それはまあ、そうなんじゃろうな……」
 歯切れの悪い言葉を出した。
「いずれにしても、源ジイの体の変調はわかった。そして源ジイは癌細胞と共存して生きている。当分死ぬことはない。そういうことだな源ジイ」
 和彦は結論じみたことをいって、源次の顔をまっぐ見た。
「詳細はわからねえが、そろそろ医者のいった余命一年になるけど、俺は今のところ元気に生きている。誰にも通用することじゃねえだろうけど、今のところ、癌細胞は俺の願いを聞いてくれてるようだからよ」
 こくっとうなずく源次に、
「何にしてもすごい。やっぱりおめえは、やることが違う」
 感心したように洞口がいった。
「だけどよ。もし貫ちゃんところのように、暴れている最中に発作がおきれば、どうにもならんことだけは了承してくれ」
 みんなに向かって頭を下げる源次に、
「わかった。それは仕方がない。源ジイのせいでも何でもないんだから」
 和彦は力強くうなずく。
 これでようやく、わかった。
 以前、源次がいっていたことだ。
「わしが大立回りをして忍者だと知れたら、それだけでこの商店街はきゃっこうをあびることになる。だが――早い話、わしが死ねば、それで終りで何の役にもたたん。それではだめなんじゃ」
 源次はこういって、忍者という派手な個人プレイなどよりも若者が集まる町こそ本物だと力説した。源次は自分が早死にすることをしていたのだ。だから忍者という言葉を封印して……。
「それにしても、あの時々おこる発作はなんじゃろな。あれがわしには理解できん。癌細胞のヒステリーじゃろか」
 真顔でいう源次に、
「癌細胞のサインですよ。私を忘れないでほしいという」
 ぽつりと翔太がいった。
「ああっ……」
 といって源次はなぜか、れたような表情を浮べた。
「それなら、源ジイの病気の件はこれで落着。白猟会と梅の湯のさんの件は、さっきもちょっと報告したように、引きつづき和ちゃんと源ジイに一任ということでいいよな」
 めの言葉を洞口がいい、
「なら源ジイ。しゅくはいということで、みんなで角打ち酒場にこれから繰り出すか。何の祝杯なのかはよくわからんがよ。あそこならまだ、やってるはずだからよ」
 こんなことをいい出してみんなが賛成し、その場に立ちあがった。
「源次さん、ひょっとして」
 表に出たとたん、翔太が嬉しそうに声をかけた。
「癌細胞に、名前をつけてるんじゃないですか」
 とたんに源次の顔が、うっすらと赤くなったが、それがどんな名前なのかは誰も訊かなかった。(つづく)