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第1回 ニューヨークの若者も「さとり世代」化している!?

第1回 ニューヨークの若者も「さとり世代」化している!?

「さとり世代」化は「高度成長ステージ」が終わった証

 一つ言えるのは、「さとり世代」化するためには、「ただ貧しい」だけではダメだということ。僕自身が著書『さとり世代』(角川oneテーマ21)を書く過程でしみじみ思ったのは、「ある程度生活に余裕がないとさとりづらい」ということなのです。

 今、述べたように、「さとり世代」になるための必要条件は「経済的不遇」ですが、もう一つの「十分条件」は「ある程度生活に余裕がある」ことなのです。本当に食うや食わずで、明日の食事代にも困るようなぎりぎりの貧困状態であったなら、「さとり」などと悠長に構えていられないからです。

 日本でも、社会学者の古市憲寿氏が著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)で描き出したように、収入が低くても生活に満足し、幸福感を感じているという若者が大量に出現しています。それこそ、僕の言う「経済的不遇」と「ある程度生活に余裕がある」という必要十分条件を満たした若者たちなのです。そのような若者たちが「さとり世代」化するのであり、「さとる」ためにはある程度の「ベースの豊かさ」が不可欠なのです。

 もちろん、「さとり世代」の若者たちが、語の本来の意味で「悟りを開いている」わけではありません。しかし、少なくとも、昔の若者たちよりは「洗練されている」とは言えそうです。「さとり世代」はガツガツと働かず、他人を押しのけてでも人の前に進もうという志向性もありません。むしろ、「お先にどうぞ」と人に道を譲ったり、恵まれない人のために尽くすことに喜びを感じたりするのです。それはある程度の豊かさに恵まれているからこそできることで、「洗練」と呼ぶのがふさわしい変化だと思います。あるいは、「成熟社会」化と言ってもいいかもしれません。

 社会が成熟してくると、高度成長期のような“モーレツ企業戦士”のような人は少なくなり、みんな「まったり」としてきます。必要以上に頑張らなくなり、他人のことを考える余裕も出てくるのです。

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インタビューに答えてくれたNYブルックリン在住のイリア・ウィルソンさん。好きなブランドはユニクロ。現在は、4人の仲間とシェアハウスで暮らしている。

「他人のことを考える余裕」という点では、ソーシャルメディアの影響も大きいと思います。
ソーシャルメディアは、あらゆる階層の人を等価に結びつけるツールでもあります。たとえば、孫正義(ソフトバンク社長)やダルビッシュ有(メジャーリーグ「テキサス・レンジャーズ」投手)など、VIPの人たちと、ツイッターを介して普通の無名の学生がやりとりすることもできるのです。

 ソーシャルメディアがなかったころ、このようなVIPと、無名の学生が直接会話する機会は、ごく僅かだったと思います。しかし今は、ソーシャルメディアを介することで、そのようにかけ離れた人たちの間に自然な接点が生まれる可能性が十分にあります。ソーシャルメディアは、学歴、地位、所得などの違いがある人々を容易に結びつけることができるのです。

 そのため、これまでは実社会では接点のなかった人たちの不幸や不遇の実態も、生の情報として垣間見ることができるのです。そのことによって、いまのデジタルネイティブ世代は、昔の若者たちよりも総じて「他者の不幸や痛みに敏感」なところがあります。今回の取材で出会ったニューヨークの若者たちが、皆、社会貢献志向を強くもっていたのも、一つにはそのためでしょう。

「さとり世代」というと、あまりよいイメージがないかもしれません。でも、他者の不幸に敏感であることと、そのことをふまえた他者に対する優しさは、「さとり世代」の美点だと僕は思います。

 そして、日本同様、ニューヨークの若者たちも、「さとり世代」化しているということは、各国が一定の豊かさを獲得し、なおかつ「高度成長ステージ」が終了したという同じ条件を備えているからこそ起きてきた、同時多発的な変化なのです。

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