第3回 若手を育てる日本ハム流「泥臭い野球」
第3回 若手を育てる日本ハム流「泥臭い野球」

北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督
言葉をかけ続けて、カッコいい自分の姿をはっきりとイメージさせる
原田 曜平 『改訂版学習指導要領』による教育(いわゆる「ゆとり教育」)を受けた20代の若者は「ゆとり世代」と呼ばれ、どこの職場でも上司が新入社員のモチベーションを上げられず嘆いています。経済成長していた時代の若者はイケイケで競争が大好きでしたし、「どんどん徹夜でがんばるぞ!」という雰囲気がありました。
「24時間戦えますか」的なオジサン世代とは対照的に、今の子がのんびりしているのはたしかです。日本のサラリーマンで上司を務めている人は、多かれ少なかれ「今の子はなんかダメだな」と不満を感じているのではないでしょうか。若い選手のモチベーションを上げるために、栗山監督はどんなハッパをかけていますか。
栗山 英樹 「クサい」とか「ダサい」と思われるかもしれませんが、僕はよく選手に「カッコ良くなろうぜ」と言うのです。メジャーリーグが大谷翔平に、ピッチャーとバッターの二刀流選手としてオファーしてきたら、こんなにカッコいいことはないじゃありませんか。
原田 ピッチャーはバッティングなんて何もやらなくていいというのは、世界の野球の常識ですからね。
栗山 世の中があまり期待していない2軍選手が、誰もがビックリするようなプレーをしたらどれだけカッコいいか。「すごいな! そういうお前がオレは大好きなんだよ!」と言いながら選手を励ましています。
原田 「お前はここがダメなんだよ」と欠点を指摘するのではなく、あこがれと夢を見させてあげるのですね。
栗山 そういう泥臭さでぶち当たっていけば、選手は必死でがんばってくれるのです。こっちが必死にならなければ、若い選手だって必死にはなってくれません。若い選手の考えとは反対の意見を述べるときには「オレは絶対違うと思うんだよ!」と熱く真剣に語れば、彼らも真剣に僕の話を聴いてくれます。
原田 青山学院大学の原晋監督も同じ話をしていました。この対談の第1回でも話題になりましたが、原監督は駅伝チームの目標を毎年「ワクワク大作戦」とか「ハッピー大作戦」「サンキュー大作戦」と銘打っています。「あのネーミングって、今の子たちは冷めないものですか」と尋ねたところ「そう思っていましたが、意外と効くんですよ」と言うのです。
プロ野球の世界でも、栗山監督言うところの「泥臭さ」がけっこう効果的なのかもしれません。
栗山 ファイターズのチームで言うと、2016年のシーズンは西川遥輝がなかなか花開かず苦しみました。遥輝の足の速さと打つ能力はすごいですし、塁に出れば日本一のカッコ良さがあります。本人は3番打席に立ちたくてしょうがないようですが、僕は「いやいや、お前は日本一の1番バッターだよ」と言って激励しています。
言葉をかけ続けて、カッコいい自分の姿をはっきりとイメージさせる。ここは徹底的にやっています。「カッコいいオレ」のイメージが曖昧なせいで、昨日やっていたプレーと今日のプレーが食い違い、選手のプレイが迷走してしまうのではないでしょうか。