米中の攻防と日本の選択 記事トップ

第12回 北京発 比ドゥテルテ大統領の“訪中と訪日”から考える中国の思惑と日本の針路 

第12回 北京発 比ドゥテルテ大統領の“訪中と訪日”から考える中国の思惑と日本の針路 

「われわれを助けてくれるのは中国だけだ」

 ロドリゴ・ドゥテルテ・フィリピン大統領が中国を公式訪問する直前、中国国内世論で蔓延まんえんしていたフレーズである。中国中央電視台(CCTV)の著名キャスター・水均益氏が訪中前にフィリピンの大統領府におもむき、同大統領をインタビューした映像が中国国内に流れた。そこには、自らがきょうであり、それが中国との関係を重視する理由の一つであると指摘する同大統領の姿があった。

 鉄道網の整備なしにフィリピン経済の発展はありえないと主張する同大統領は、中国がフィリピンの鉄道建設を支援してくれることを懇願こんがんし、過去のスペインや米国のフィリピン政策を批判したうえで、次のように言及した。
「フィリピンの経済にとって唯一ゆいいつの希望は中国だ。あなた方が助けてくれなくても、われわれは進歩するだろう。ただそれには1000年の時間を必要とするだろう。もちろんこれはちょうした言い方であるが、数世代くらいの時間は必要になるにちがいない」

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フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ・フィリピン大統領

 ドゥテルテ大統領の中国に対するこのような発言から、中国国内では冒頭のフレーズが蔓延したのであろう。経済社会政策、特にインフラ建設、そして自らが就任以来、大々的に展開する麻薬撲滅ぼくめつ運動を中国に支援してもらいたい。そんな思いを抱いて北上してくる同大統領。私はこれらの模様を中国国内で眺めていたが、そこには、まるでフィリピン共和国が中華人民共和国に“ちょうこう”をしてくるかのような雰囲気さえ感じていた。

 今回、中国共産党はフィリピンの新しい指導者に対して自信を持って向き合おうと決心していた。その背後には、少なくとも現段階においては、ドゥテルテ大統領が7月中旬にハーグ常設仲裁裁判所(オランダ)で公表された南シナ海問題の判決結果にかかわらず、両国間の話し合いや交渉を通じて同問題を解決していこうとしていることによって、中国が同大統領を“友人”と認識したことに加えて、同大統領が重視する経済インフラ建設と麻薬撲滅運動という2大分野が、まさに中国共産党がとしてきた領域であることとも無関係ではないだろう。
 
 長い鉄道を造るスピード、犯罪マフィアを相手にするしたたかさ、どれも中国共産党が得意とするカテゴリーである。仮にドゥテルテ大統領が人権問題と信仰の自由の実現を政治公約として掲げる指導者であったならば、南シナ海問題で中国との2カ国間対話による解決を主張したとしても、中国は、ここまでの寄り添いと取り込みを計画・実行しようとは思わなかったにちがいない。
 
 今回のドゥテルテ訪中受け入れに関わった中国外交部の幹部に、この点をぶつけてみると次のようなコメントが返ってきた。

「南シナ海問題は核心だと言っていい。仮に新しい大統領が仲裁判決の尊重を公に、大々的に主張するような人物であれば、われわれがこのような形で対フィリピン関係を重視し、大統領に手を差し伸べようとするわけがない。加えて、ドゥテルテ大統領が進めようとするインフラ建設は、習近平シージンピン総書記が掲げる“一帯一路”構想にすっぽりはまる需要である。経済外交という点から見ても、同大統領との距離を縮め、対話を強化する前提条件はそろっている」
 
 この幹部も含めて、中国の政策立案者・決定者はあまり語りたがらない、というよりは、意図して沈黙を保っているように見えるが、ドゥテルテ大統領に寄り添い、取り込もうという意図と行動の背後には、南シナ海問題という一点を超えて、これからアジア太平洋地域で展開されうる勢力均衡きんこうのプロセスを、自らに有利に進め、動かしていこうとする中国の戦略的思考が存在するようにも思える。言うまでもなく、この過程で意識するのは米国の戦略とプレゼンスであり、だからこそ、米国の同地域における最大の同盟国である日本の動向にも気を配らざるをえないというのが現状ではなかろうか。

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