米中の攻防と日本の選択 記事トップ

第10回 ワシントン発 南シナ海仲裁判決を経て米中関係はどう変わるか?

第10回 ワシントン発 南シナ海仲裁判決を経て米中関係はどう変わるか?

「南シナ海問題を巡る仲裁判決を受けて、米国との関係や交渉はもっと緊迫したものになると予想していた。米国政府も従来からの原則的立場を表明したし、判決案を支持するとも言った。それは中国にとって外交的な圧力を意味するが、中米関係は持ちこたえた。仲裁案を経て一瞬いっしゅん緊張感がただよったが、悪化はしなかった。中米間で日頃から綿密かつ多角的な意思疎通に取り組んできた賜物たまものだ」

 8月上旬、ワシントンD.C.ホワイトハウスから1キロくらい北に行ったところにある一角で、中国政府幹部が私にこう語った。

 今年のワシントンD.C.は暑い。時々雨が降って一時的に涼しくなることもあるが、早朝から日差しが強い日が多く、地元の人々も「近年まれな暑い夏だ」と口をそろえ、汗をぬぐう。ヒラリー・クリントンVSドナルド・トランプの構図で白熱してきた大統領選挙キャンペーンや、米国を取り巻く複雑で厳しい国内外の環境が、ワシントンD.C.の大地を一層激しく照りつけ、街を歩いていると、なんとも不気味なじめじめ感すら覚えてしまう。

南シナ海は中国固有の領土、判決は「受け入れない」「認めない」「執行しない」

 南シナ海問題は昨今の米中関係にとって最上級とも言える次元の懸案であると私は考えてきた。4月に日本の広島で開催されたG7外相会議に際して、中国が南シナ海問題でナイーブになった背景と動機を分析した第7回コラムで私は次のように提起した。

〈昨今の米中関係には(1)共同作業を進めていける分野、(2)立場や意見の相違は存在するが、話し合いによって矛盾を緩和できる分野、(3)国益や価値観が真正面からぶつかり、常に緊張感が漂い、両国関係の全面的悪化を招きかねない分野という3次元の分野が交錯していると私は考えている。そして、それぞれを代表する象徴的な例を挙げてみると、(1)気候変動問題、(2)サイバーセキュリティ問題、(3)南シナ海問題、だと現段階では捉えている。〉

 オランダのハーグにある常設仲裁裁判所が7月12日に判決を発表することが世の中に発表されてからというもの、中国当局はこれまで以上にネガティブキャンペーンを強化し、“官民一体”となって、南シナ海は中国固有の領土であり、中国は同海域に歴史的権利を有していること、中国は同判決を受け入れない、認めない、執行しないの“三不”(三つのノー)という立場を断固として堅持していくこと、そしてこの判決は国際法の合法性や正統性を占うものではなく、かつ、フィリピンは表面上のプレイヤーでしかなく、実際は米国が後ろで同国を操り、中国を封じ込め、陥れようとしている性質のものであることなどをプロパガンダした。

 私はその模様を、北京を中心に観察していたが、中国国内で異なる立場や見解を一切許さない、徹底した情報統制がかれた状況だった。中国共産党当局があそこまで敏感びんかんに、ナイーブになり、これでもかこれでもかというほどに、自分は正しく、相手が間違っているのだと主張し続ける姿からは、共産党として、この主権や領土をめぐる、すなわち“核心的利益”に関わる問題では一切の妥協はできない、そこで妥協すれば共産党の権威や存続そのものが揺らいでしまうという危機感を持って向き合い、取り組んでいる事情がせきうかがえた。

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