稀代の編集者・花森安治の生涯を描いた評伝

稀代の編集者・花森安治の生涯を描いた評伝

『花森安治の青春』

[著者]馬場マコト [評者]岡崎武志/書評家

 NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」が好調だ。健気に家族を支え、前を向いて生きるヒロイン(高畑たかはた充希みつき)のモデルが大橋おおはし鎭子しずこ。戦後、「暮しの手帖」を編集長・花森安治と共に盛り立て、国民的雑誌に育て上げた女性だ。

『花森安治の青春』は、稀代きたいの編集者でデザイナーだった花森の生涯を、青春期を主体に描いた評伝。大橋鎭子との運命的な出逢いを果たすのは、本書がようやく三分の二に達したあたり。「とと姉ちゃん」ファンは、ちょっと気がめるかもしれない。

 1911年に神戸で生まれた花森は、旧制松江高校で交友会雑誌、東京帝大で学生新聞の編集にたずさわり、比類なきデザインセンスで、誌面を刷新する。また、高校受験の浪人中に、平塚らいてうの書いた「元始、女性は実に太陽であった」という一文に眼ざめ、以後、つねに女性に関心を寄せ、そこに生活と思想とデザインを一体化する、独自の志向を打ち立てた。馬場マコトが丹念に取材し、作り出した花森安治という造形を見れば、この青春が「暮しの手帖」を生み出したことがよくわかる。佐野繁二郎、山名文夫、田所太郎、扇谷正造など、戦後の出版と広告文化をリードする人物たちとの交遊、戦中の翼賛運動を経て、戦後、いよいよ鎭子が登場する。女性が真ん中の暮しがあれば、戦争は起こらないときもめいじた花森と、空襲をくぐり抜け、「お金持ちになりたい。泣くことはやめよう」と誓った鎭子が、「暮しの手帖」伝説を作り上げていく。

 夕焼けに染まる御茶ノ水の高台の上で、花森が鎭子に「なにが見える」と語りかけるシーンが感動的だ。闇市の店頭に積まれ夕日に光り輝くフライパンを見て「守るのはこのフライパンなんだよ」と花森が言う。敗戦後の日本の「暮し」は、このフライパンが生み出していったのだ。

 女性の新しい生活のために、美しい雑誌を作り始めた人たちがいた。『花森安治の青春』は、雑誌文化の「青春」を思わせ、読んでいて熱い気持ちになる。「とと姉ちゃん」の戦後編が今から楽しみだ。 (2016年『潮』7月号より転載)

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