米中の攻防と日本の選択 記事トップ

第7回 北京発 G7外相会議と南シナ海問題――中国がナイーブになる背景と動機

第7回 北京発 G7外相会議と南シナ海問題――中国がナイーブになる背景と動機

南シナ海問題を議論されることに中国はナイーブになっていた

 中国共産党として日本が主催するG7会議を“監視”するのは自由であるし、特に9月にはG20首脳会議を地元杭州(筆者注:杭州は習近平現国家主席が2002年から07年まで勤務した浙江省の省都でもある)で開催する中国としては、それよりも早く開催され、西側先進国で構成されるG7会議の動向を注視することは当然のことであろう。実際に、中国共産党首脳部はとりわけ西側先進国クラブの中で唯一のアジア国家である隣国の日本がG7を主催するという事実を重く、厳しく受け止めているにちがいない。

 一方で、G7外相会議で南シナ海問題が議論されないことは原則あり得ないと言えることもまた事実であろう。昨年ドイツで開催されたG7外相会議が発表した海洋安全保障に関する声明でも東シナ海・南シナ海問題は取り上げられている。それに加えて、昨今の南シナ海情勢は昨年に比べて明らかに緊迫化しており、かつ今年の議長国が同海域から近いがゆえに、より切実に問題の深刻さを感じやすい日本であること、米国が南シナ海問題をますます重視していることに考えを及ぼせば、G7外相会議がこの問題を一つのイシューとして扱わないことは考えられなかった。
  
 私は前出の中国共産党関係者らと会話をするたびにこのように回答していたが、先方は大概「それはまずい。中国はふんがいあらわにするだろう。日中関係にも少なからぬ悪影響が出る」という反応をしてきたものだ。中国共産党内において対日関係をめぐる政策決定プロセスが複雑化していく雰囲気を私は北京で感じていた。

 長年中国外交部でアジア政策に関わってきた元政府幹部は、昨今の外交部と外交政策の在り方を嘆きながら次のように指摘する。

「中国の対外関係において実質的な議論をしつつ、かつ権限を持っている組織は中央外事工作領導小組であるが、この枠組みでも国防部、公安部、国家安全部といった部門の発言権が高まり、外交部による政策立案・履行プロセスを縛っているのが現状である。それが理性的でないこともある。南シナ海問題をめぐっては、解放軍関係者の意向が政策に反映されやすくなっていると感じている」
 
 G7外相会議の直前、駐日大使を歴任したこともある“知日派”外交官・王毅ワンイー外相は、訪日前に北京に立ち寄った欧州の外相に対して比較的赤裸々な外交圧力をかけて回った。

 典型的だったのが、4月8日、北京で行われた第2回中国・ドイツ外交安全保障対話での場面である。G7会議とG20会議に話が及んだ際、王毅は、シュタインマイヤー外相に対して次のように主張した。

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北京の外務省で握手する中国の王毅外相(右)とドイツのシュタインマイヤー外相 写真=共同

「G20は世界の主要な先進国と途上国をカバーしている。3カ国の経済総量と貿易量は世界の80%以上を占めている。他のメカニズムと比べて、G20はより代表性があり、国際社会の普遍的な願望とコンセンサスを反映できる。G20はグローバル・ガバナンスと協力にとって最も重要なプラットフォームとなっている。今年のG20のホスト国として、中国はドイツを含めた各参加国と手を携え、杭州サミットの成功を実現したい。世界経済を盛り上げ、成長の原動力を発掘し、問題解決のための方向性を示し、解決策を出したいと思う」

 私自身、前出の各関係者との交流を通じてもひしひしと感じていたが、習近平政権下の中国はとにかくありとあらゆるマルチメカニズム・プラットフォームを活用・駆使しながら、中国の地域的・国際的なリーダーシップと影響力を誇示・発揮すべく躍起になっている。

 王毅のこの発言でも明らかなように、中国は今年自らが主催するG20会議をって、G20というメカニズムこそがグローバルな問題を解決するための最も機能的で合理的なプラットフォームだと証明したいのだろう。G7よりもG20のほうが公正で合理的なプラットフォームであると言っているに等しい。「G7は決してグローバルなメカニズムなどではない。西側の先進国だけで問題解決できるほど昨今の国際情勢はシンプルではない」(中国国家指導者の英語翻訳者)。

 王毅はシュタインマイヤー外相について次のように続けた。

「G20が開催される前にG7が行われる。私は、G7もG20と同様、世界各国が最も関心を持っている経済と発展の問題に注目し、G20と良好なインタラクション(相互作用)を実現してほしい。一部国家が政治的な目的から歴史が残した問題や主権や領土に関わる具体的な問題をG7会議に持ち込むとしたら、それは問題の解決にとって有利に働かないばかりか、地域情勢の安定にも影響を与えるものである。そのような手段を取ってはならないことは明らかである」

“歴史が残した問題や主権や領土に関わる具体的な問題”が南シナ海、および東シナ海の問題を指していることは明らかである。4月9日、王毅は英国のハモンド外相と北京で会談した際にも自国の南シナ海問題に関する立場を表明している。

 習近平国家主席に近い“紅二代”に属する人民解放軍幹部が外相会議の翌日、北京で私に語った次の言葉は、中国共産党指導部がG7という枠組みをひとくくりにするのではなく、特に日米と欧州を分けて捉えている現状を示している。

「中国としては、日米が結託して南シナ海問題に首を突っ込んでくることは避けられないが、G7各国を分裂させることはできる。G7加盟国の対中スタンスが同じであることはない。アジアインフラ投資銀行(AIIB)はその典型だ。西側先進国は一枚岩ではない。それぞれ異なる立場と利益欲求から中国を認識し、付き合っていこうとしている。特に、英国、フランス、ドイツという欧州の大国に対しては、中国は経済的つながりと投資という観点から戦略的に接近し、中国の核心的利益を尊重してもらうよう主体的に仕掛けていくべきだ」

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