米中の攻防と日本の選択 記事トップ

第6回 北京発 全人代が醸し出す米中の攻防――北朝鮮の核問題と南シナ海問題

第6回 北京発 全人代が醸し出す米中の攻防――北朝鮮の核問題と南シナ海問題

両会リャンホイが閉幕しましたね」

 誰に会って話をしてみても、二言目にはこのセンテンスを耳にする北京の片隅で本原稿を執筆している。“両会”とは、全国人民代表大会と全国政治協商会議、二つの会議の略称であり、通称である。毎年1回、3月上旬から中旬にかけて、約2週間北京で開催される。

 いわゆる“政治の季節”である。

“両会”の見どころは、国務院総理によって発表される、昨年度のレビュー(検証)と本年度のプレビュー(確認)から成る「政府活動報告」、国務院の首長による記者会見(各省庁の部長だけでなく、総理も行う)、全国人民代表大会、全国政治協商会議、最高人民法院などのトップによる報告、および各地方が自ら主催する代表会議などである。中国共産党をめぐってさくそうする情報をインプットするうえで極めて重要なプラットフォーム(仕組み)の一つであると私は認識している。

 近年、“両会”における外交の存在感が増していると感じている。それだけ対外関係が中国共産党の政権正統性や政策方向性に与える比重が高くなっているということであり、それだけ中国を取り囲む外部状況が複雑になり、内部状況へと及ぼすインパクトが高くなっているということであろう。

 参考までに、3月16日、李克強リーカーチャン総理が臨んだ最終日の記者会見において出た合計16の質問のうち、外交は四つを占めた(米中関係、日中関係、朝鮮半島、中ロ関係)。もっとも多かったのはやはり経済で六つ(うち、共産党の党建設にも関わる規制緩和と地方政府の在り方に関する質問が二つ)、社会が四つ(うち年金や医療保険など社会保障に関わる質問が三つ)、そして香港問題、台湾問題が一つずつという構成であった。香港・台湾問題は、中国を取り巻く対外関係や東アジアの地政学的状況にも直接影響を与える“外部要素”あるいは“外的要因”という色彩を持っており、結果的に3分の1以上が外交関連の質問という具合であった。

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開幕した2016年の中国の全国人民代表大会 写真=共同

 今回は、“両会”という毎年恒例の政治会議を一つのケーススタディーに据え、本連載コラムの核心的テーマである米中関係の現状と行方にインパクトを及ぼし得るピースを拾っていきたい。基本的には、王毅ワンイー外相の記者会見における発言を主要な情報源とし、李克強首相の外交に関する発言も交えつつ、私なりのレビューをしていくことにする。そのうえで、最後に「両会から垣間見える米中関係の現状と構造」が日本の政策にとって持ち得るインプリケーション(含意)を検証してみたいと思う。(以下、要人の敬称略)

米国サイドは“戦略的疑念”を中国に対して抱いている

 トップバッターとして、まずは王毅の米中関係そのものに対する回答を引用してみたい。

「二つの大国である中米の間には協力があり、摩擦もある。これが常態と言える。今朝ある情報を聞いた。米国が中国の企業に対して貿易規制を実施するという。これは経済貿易関係をめぐる矛盾を処理する正しい方法ではない。我々の利益に損害を与えるし、米国のためにもならない。このような常態を前に、我々の仕事は問題に真正面から取り組み、かつそれらを解決するものではなければならない。協力を拡大・深化させ、同時に摩擦や立場の違いを協力に変えていくことが求められる。たとえば、気候変動問題において、中米は立場の違いがあったが、昨年両国は協力してパリ会議における成功を促進した。また、少し前までサイバー問題において摩擦があったが、両国は対話と協力のメカニズムを構築するに至っている。最近海上問題における摩擦が再び増え始めているが、米国が真の意味で冷静になれば、我々は海上における協力をに展開していくかというテーマをより多く考慮することができると信じている」
 
 このセンテンスから次の三つを解読できる。

(1)中国政府は、米中関係にはこれから比較的長い間、「協力」と「摩擦」が必然的に共存していくという認識を持っている。

(2)中国政府は米国の対中認識・政策に一定程度の不満と不信感を抱いており、両国関係が悪化する原因を作っているのは米国側だと認識している。

(3)あらゆる問題やテーマが蓄積する米中関係のなかで、中国政府は気候変動を「大々的に進めていける成功例」、サイバー問題を「困難は伴うが協力していける課題」、南シナ海問題を「現段階においてもっとも厄介で、落とし所が難しい難題の一つ」だと認識している。

 この3点を念頭に置いたうえで、王毅が続けて発した言葉を引用してみたい。

「摩擦を生じさせている根源はやはり米国サイドにはいつも中国に対して戦略的疑念を抱いている人間がいることにある。彼らは中国がいつの日か米国に取って代わるのではないかと懸念している。私はここで再び強調したい。中国は米国ではない。中国がもう一つの米国になることは絶対にないだろう。我々に誰かに取って代わるとか、誰かを領導するとかいう意思はない。米国の友人たちには中国が5000年をかけて蓄積してきた歴史・文化の伝統を勉強することを勧めたい。そして、米国の思考回路で中国を判断してはならない。この点を明らかにすることで、中米関係の展望はかつぜんとして明るいものになるであろう」

“戦略的疑念”という言い回しは、昨今の米中関係が如何にストラテジック(戦略的)であるか、そして実際に中国共産党指導部が如何にして戦略的観点から両国関係をめぐる問題の構造を認識しているかをていしている。私個人の感覚と解釈では、共産党の指導者は中国が経済力や軍事力で米国に追いつき、追い越せというレースを繰り広げる過程において、「米国に代わって世界一の大国になる」という目的意識よりは、「中国独自の体制、イデオロギー、やり方を持って突き進み、自らが意識的、無意識的にかつぼうする世界を作り上げる」という潜在意識のほうが深いように思われる。

 王毅はこのセンテンスで「再び強調したい」と言ったが、私が把握し得る限りにおいて、“両会”直前に当たる2月25日、“電撃訪問”した米ワシントンD.C.にあるシンクタンク・国際戦略研究所(CSIS)で行った演説「発展中の中国と中国外交」にて、同氏は次のように語っている。

「一部の米国の友人たちが中国こそが米国の将来的な真のライバルであり、いつか中国が米国に取って代わるのではないかと心配している。このような問題は存在しない」

「中国が米国に取って代わらない理由はとてもシンプルだ。なぜなら、中国は米国ではないからだ。中国は中国だ。中国がもう一つの米国になることはない。中国人の血には拡張のDNAはさほど流れていないし、救世主になりたいという衝動もさほどない」

会場から笑いを誘いながら、ユーモアを交えて王毅は自信満々の表情でこう主張した。

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