『小説 土佐堀川』への道

第6話 浅子像を描く一番の手掛かり

第6話 浅子像を描く一番の手掛かり

 これまでは浅子を知るために実家の三井家のこと、そしてじままつえいなどを探して調べ、周辺からの資料集めにほんそうした。しかし一番大切なのは、小説の主人公である浅子自身の考えや行動をしっかりとあくすることである。

 幸いにもばんねんの浅子は、手がかりになるような著作物を少なからず残している。おそらく雑誌などにけいさいされたエッセイなどがなかったら『小説 土佐堀川』は書けなかったかもしれない。

 浅子はじよ婿せいの恵三に事業をゆずって第一線を退しりぞき、日本女子大学の創立にじんりよくするかたわら、雑誌社などからの執筆依頼におうじてエッセイを書いた。当時の資料となる著作のほとんどが日本女子大学に保存されていることを知り、友人の女性教授を通してお願いし、借りて目を通すことができた。

 やはり当人が書いた資料にまさるものはない。文章にはその人の考えや生き方がによじつに表れる。特に浅子の場合はその主張は率直でめいりようであり、浅子の人間像をえがくのに大いに役立った。

 エッセイが掲載された雑誌は、大別して三つの分野に分かれる。第一には日本女子大学関係のもので『学報』や『家庭週報』そして『桜楓会通信』、第二にはジャーナリズム関係で『婦人週報』や『婦女新聞』、第三にキリスト教関係の発行誌『婦人新報』などである。

 これらの雑誌に発表された浅子の主張は驚くほど先進的であり、現在でも立派に通用するざんしんな意見であった。例えば「小我と真我」について、小我は自分のこと、真我は自分を越えた大局的なもの、つまり社会や国、小さな自分にこだわってエゴを通し、大局的な視点を失った時には行きづまる。人間は人のために、そして社会のためになる生き方をしなければならない。

 女性の夜明け前とも言われる時代に、浅子はすでにより大きな視点に立って物事を考えていた。さらに、成功するためには活力をもった人間になれという「活力主義」、女性は数字に強くなれなどと、ばやに自らの主張を文章にして雑誌に発表した。

 また浅子には『一週一信』という題の単行本がある。これは日本初の女性新聞記者と言われている小橋三四子が創立した婦人週報社から出版されている。浅子が「九転十起生」のペンネームで雑誌等に連載したものが、小橋によって単行本として出版された。

『一週一信』には浅子の生い立ちなども書かれていて、浅子像を描くための一番の手がかりとなった。負けん気、商売に必要なせんけんの明、男性以上の胆力、数字に強いこと、率直な物言い、ずば抜けた行動力など、浅子のエッセイの中から浅子像の要素を拾い上げて文章化し、背景に日本歴史や経済のへんせんなどを書き込んで、『小説 土佐堀川』の原稿は出来上がったのである。

(2016年『潮』3月号より転載)

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