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第5回 台北発 蔡英文率いる民進党が大勝――日米は何をすべきか?

第5回 台北発 蔡英文率いる民進党が大勝――日米は何をすべきか?

2016年1月15日20時、台北市。

台湾総統府に隣接する広場では、中国とは距離を置く傾向が比較的明白で、現在総統を務める馬英九マーインジョウの前任者・陳水扁チェンシュイビエン総統時代は「台湾独立」を公に唱えたこともある民主進歩党(以下「民進党」)の「造勢挽会」(選挙直前に行われる前夜祭のようなイベントで、立候補者やその仲間たちが投票前最後の政治主張や有権者への懇願を示す場)が行われていた。雨が降り続けるなか、鉢髪をつけたり、プラカードを掲げたりしながら、民進党を支持する有権者たちは、翌日の選挙を待たずして、同党主席・蔡英文ツァイインウェン氏がすでに台湾次期総統に決まっているかのような口調と表情で、「総統、こんばんは!」と前方にあるステージに向かって語りかけていた。

民進党前夜祭2

選挙直前に行われた民主進歩党の「造勢晩会」に集まった支援者たち 写真:Yoshikazu kato

 
プラカードに刻まれていたスローガンが私の目を釘付けにした。
「台湾元年」
「台湾国弁公室」 
「台湾国初代総統・蔡英文」

「中華民国」と「台湾国」という二つのアイデンティティー

翌日の選挙では、ひょうどおり民進党が圧勝し、蔡英文・民進党主席が第十四代中華民国総統に就任することが決まった。そう、我々が通常認識・呼称する「台湾」の“国号”は「中華民国」(Republic of China)である。しかし、民進党の前夜祭に駆け付けた有権者の多くは、自らを「中華民国」の国民だと認めてはいかなった。「中華民国」は1912年に中国大陸で成立し、1949年、共産党との内戦に敗れた蒋介石率いる国民党政府が台湾に逃れ、その後、台湾を実効支配し、現在に至っている。(同年、中国大陸は毛沢東によって建国された中華人民共和国によって統治されることとなった)

要するに、中国国民党(1919年設立)こそが「中華民国」の象徴であると同時に、それ以前から台湾に住んでいた「本省人」と呼ばれる人々の多くは、後から入ってきた“中国人”(通称「外省人」)によって統治されることに抵抗感や嫌悪感があった。私から見て、本省人の多くは1986年に設立された民進党の支持者であり(民進党設立の翌年、台湾で約38年間続いた戒厳令が解除された)、彼ら、彼女らは中国国民党を象徴する「中華民国」の存在を実質認めておらず、それによる台湾での統治形態に内心屈していない。だからこそ、民進党の有権者の多くは、蔡英文に対して「台湾国初代総統」になることを求めているのである。台湾内部では、国号や国旗を現在の「中華民国」のそれから変更することを求める声すら比較的広範に存在してきた。

実際、民進党の前夜祭会場において、少なくとも私は「中華民国」の国旗を掲げる有権者を見かけることはなかった。一方で、同日の同じ時間帯に新北市シンペイ シー板橋バンチャオにて開催された国民党の前夜祭では、台湾メディアの報道にもあったように、有権者のほとんどが「中華民国」の国旗を片手、あるいは両手に同党主席であり、今回国民党が擁立した総統立候補者・朱立倫ジューリールンに声援を送っていた。

今回の選挙キャンペーンを通じて、後述するように、朱立倫は中国大陸との関係をどう安定的にマネージしていくかという国民党の“得意分野”を全面に打ち出し、かつ同党が中国との関係を構築するうえでの政治的基礎としてきた“*1二コンセンサス”を認めるか認めないかという一点で宿敵・蔡英文を攻め続けた。「中国との関係を安定的に発展させないかぎり台湾の未来はない。そしてそれができるのは我々国民党だ」とでも言わんばかりに。

一つ言えるのは、双方の前夜祭会場における対照的な光景は、まさに民進党と国民党、とりわけその支持者たちの現状認識や未来欲求、そして「台湾人とは?」というアイデンティティーをめぐるギャップや葛藤が体現されているということであった。

23時過ぎ、板橋にある国民党前夜祭会場に足を運んでみた。前夜祭はすでに終了していた。片付けもほぼ完了しているようで、人影もほとんどなかった。ところどころの地面に「中華民国」の国旗が落ちている様子がやけに際立っていた。その後板橋の一角で話をした香港フェニックステレビ前コメンテーターで、中国で著名なジャーナリスト・曹景行ツァオジンシン氏は私に次のように語った。

「2012年、馬英九が勝利したときも私はここに足を運んだ。今回印象的だったのは、前回に比べて、地下鉄の中の人数がかなり少なく、ここに足を運ぶ国民党支持者たちの表情は虚ろで、盛り上がりに欠けていたことである」

※1「九二コンセンサス」 中国と台湾が「一つの中国」原則を確認しつつ、台湾側が「中国」が何を指すのかはそれぞれが解釈するとした1992年のやりとり。中台はこれを「コンセンサス(共通認識)」と位置づけて交流を深め、首脳会談でもその重要性が確認された。だが、中国は「それぞれが解釈する」という台湾側の主張を受け入れておらず、共通認識と言えるのかどうか台湾では論争が続いている。

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